Vol.12-3 |
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災害に強い町と暮らしのために |
日本自然災害学会 副会長 柴田 明徳
Akenori SHIBATA |
だれでも自分の住むまちが,快適で住みやすく,災害の少ない安全なまちであってほしいと願っています。しかし,現実には咋年の鹿児島豪雨災害や北海道南西沖地震のように大きな災害がしばしば身近に起こります。自然の災害は,科学技術の発達した現代においてもまだ十分に克服されているとは言えません。
実際の災害にまず対応してゆくのは,被害を受ける市民です。その機敏で適切な行動が,また弱者をかばう心が,被害をより少ないものにしていることは,過去の多くの感動的な事例から明らかです。
つぎに,災害時の強い味方は地域の自治体の行政者です。その地域の実情と歴史を熟知している行政の活動は,大きな安心と支援を被災者と一般市民に与えます。行政システムが災害時に素早く有効に起動するためには,ふだんの準備と周到な用意が欠かせません。大規模な災害になると,国レベルの後押しも必要になります。
また,災害を未然に防ぐには,大地震で建物や橋が壊れたり,風水害で浸水や地崩れが起こったりすることのないように,まちの構造を丈夫なものにしておくことが必要で,これは技術者の務めです。社会全体の安全を確保する意味で,国や学会などの機関による基・規準や規制が必要になりますが,同時に技術者自身が災害や安全性についての基本的な考え方・哲学をきちんと持つことが強く要求されます。
災害に対する対策を立てるためには将来どんな災害がいつどのようなかたちで起こってくるのかという予測が必要であり,これは研究者の仕事です。古今東西にわたる厖大な自然災害の情報を分析し,自然災害現象のメカニズムを解明して将来の危険性を定量的に示してゆく役割が自然災害の研究者には課せられています。
災害に賢明に対処してゆくには,災害をよく知ること,とくに小さいときから身についた形で知識を得ることが何より重要であり,教育者がその役割を果たすことになります。人間の間の戦争がなくなったとしても,自然との闘いはなくなりません。我々を取り巻く災害環境と,それに対する身の処し方を小学校の時から学ぶ必要があり,そのための貴重な教材は,我々の体験の内に,また日々のニュースの中にたくさん見いだすことができます。
災害に強いまちと暮らしを創りあげるには,さまざまな分野の人達がそれぞれの知恵を,人・もの・システムなどについて出し合うことが必要です。このような境界領域の上に成り立つのが自然災害科学です。それは開かれた学問の分野であり,その成果や知見について自由に議論したり情報を互いに利用し合える風通しのいい世界になるでしょう。安全なまちづくりは,ゆとりのある住みやすい楽しいまちをつくることに,直接にまた間接につながります。その意味で,自然災害科学は都市学,社会学とも深く関連してきます。
また,日本だけでなく世界各地の人々が自然の災害に悩まされています。わが国の自然災害に関する学術はその長い蓄積と経験から世界に誇るレベルにあります。経済大国となり,また世界の市民との交流が始まりつつある今,自然災害科学研究の豊富な情報と安全なまちづくりの技術システムを世界に提供することは,日本が世界に貢献できる最善の道のひとつです。日本が中心的な役割を果たしている国連活動である国際防災の十年(IDNDR)も今年で5年目を迎え,5月には横浜で世界会議が開かれます。広い分野の方々がこれに関心をお寄せくださることを願っております。
東北大学工学部教授
Faculty of Engineering, Tohoku University
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