Vol.14-1
 
災害科学の一層の推進を願って
京都大学防災研究所 (前)所長  田中 寅夫

 

 平成7年1月17日の阪神大震災は,5,000人を超える犠牲者と莫大な被害をもたらし,大都市直下地震の恐ろしさをあらためてわれわれに突きつけるところとなりました。災害科学,防災科学枝術の発展によって,恐らくこのような大災害をもたらすことはないであろうと私も漠然と考えておりましたが,このような期待はもろくも崩れ去り,しばらくは申し訳なさ,責任感,無力感にとらわれてしまいました。他方,防災研究所の研究者は地震の発生直後から,余震観測,被害調査など,各種の調査に懸命に努力し,その活躍によって「防災研究所」の名前は新聞,テレビ等でひんぱんに報道されました。本来なら,建築構造物などの耐震性も十分に考慮されており,地震の発生を事前に予知することができて被害は軽度に済み,このために実際,地震に直面して防災研究所はすぐさま特別に活躍する必要もなかった,という状態こそがわれわれの目指すところであったはずであると思います。しかしながら,私自身が関わっていますが,この地震の予知はできませんでした。また,大変な被害も起こってしまいました。けれども,防災科学の発展がなかったならばもっともっと被害は大きかったはずであり,防災研究所における災害科学の研究成果は防災・減災に役だっている,とあらためて自信を持ち直して,一層研究の推進に努力していこうと,改めて心に銘じております。
 大都市が巨大地震に襲われて,大きな災害となることが遠くない将来に再び確実に起こり得ると予測されますので,その災害防止・軽減のための研究をさらに効率よく強力に推進するべきであります。そこで,防災研究所を改組し共同利用の研究所に衣替えして,全国の災害科学の研究者の方々に利用して頂き,また,共同研究などを進めていただくために,平成5年5月に所長として就任しましてから,そのための準備を進めてきました。このほどとりまとめられた計画案の概要を簡単にご紹介しますと以下のようになります。現在,それぞれの災害あるいはその防止対策を研究対象としている16の研究部門は,「地震災害」,「地盤災害」,「水災害」,「大気災害」の4大部門に再編統合し,さらに新しく「総合防災研究部門」を設けることを計画しています。ここでは,人文・社会学などもとりこみ,長期的な観点に立って災害に強い,環境と調和した安全な居住生活空間を築き上げるための研究を推進する計画です。また,附属の実験所・観測所を統合して災害観測実験センターを設置し,充実した広域観測や大規模な実験を推進させる計画です。さらに,「地域防災システム研究センター」は「都市施設耐震システム研究センター」と統合して「巨大災害研究センター」とし,大規模な被害を抑止するための研究を行ないます。「桜島火山観測所」を「火山活動研究センター」に転換し,既設の「地震予知」,「水資源」の2研究センターと合わせて,5センターとする計画です。
 このような形で平成8年度の実現を目指して概算要求していく予定でありますが,本学会会員各位におかれましては,私どもの目指すところにもご理解とご支援を賜わりますよう,そして共同して災害科学の研究に当たっていただけますことを心から期待し,また,お願い申しあげる次第です。


日本自然災害学会