学会誌「自然災害科学」
自然災害科学40 Vol.15,No.4, 1997, p251f
諸先輩の努力と阪神大震災に想う
自然災害総合研究班 研究代表者
高木 不折
昭和34年の伊勢湾台風災害で5,000人余を失ったのを機に,理工農の研究者が一堂に会し,新しく「災害科学」という学問分野を作った。災害科学総合研究班は,災害科学の重要性を指摘した国立大学協会の議(昭和34年11月)に基づき,文部省科学研究費の補助を受けて昭和35年に組織されたものである。
文部省科学研究費捕助金の枠において,災害科学は,昭和35年~37年は特進分野として,総合研究・機関研究の形で交付され,昭和38~46年は特定研究,昭和62~平成4年度の間は重点領域研究として扱われたが,平成5年以降はこれらを一旦終了し,複合領域(小領域「災害」)で一般応募(総合研究,平成8年度よりは基盤研究)の形で扱われている。
この間,昭和42年の学術会議勧告「自然災害科学研究の拡充強化について」は,全国6地区に災害科学資料センターを設置する必要性を述ベ,地域災害研究を横系に,11専門分野別の研究を縦系に統合して災害科学研究を推進すべきことなどを提案した。
この勧告に基づき,昭和48年京都大学防災研究所に「防災資料センター(平成8年度には巨大災害研究センターに発展的に改組)」が誕生した。以来,昭和50年度から順次,北海道,東北大学,埼玉大学,名古屋大学に附属施設経費として資料センターの運営費が交付されるようになった。
こうして生まれ育ってきた災害科学総合研究班はすべての自然災害を対象とし,災害科学・防災科学としての学問体系の内で議論をするグループとしては世界を見渡しても比類のないものである。そして,これまで数多くの研究成果を世に出してきた。こうした災害科学の歩みを振返るとき,その先駆となった諸先輩の熱意と努力の大きさを痛感せずにはおられない。
伊勢湾台風より34年,過年には,阪神大震災に見舞われ,災害の事後の事柄が大きな社会問題となっている。災害大国にして,防災上の社会基盤がよく整備されていると言われているわが国ではあるが,ソフト面ではまだまだ不十分な状況にあることがあらためて浮き彫りにされたと言ってよい。災害科学総合班は,当初の災害事象・現象面に関する研究から,「社会の持つ防災力」,「比較災害論」などソフト面にその対象を拡げてきた処ではあるが,この度の災害は,とくにこうした面での研究を強力に進めるべきことを指摘している。
平成8年度より東京大学地震研究所,京都大学防災研究所が改組・拡充され,全国共同利用研究所として,全国の災害研究を支援下さる体制もできた。災害学会,行政の諸機関,災害科学総合研究班の研究者・技術者等が相連携し,単なる学問としてではなく,諸先輩の意志を引継ぎ真の意味で,貝体的に防災・減災の実を上げるべく努めねぱならないと思う。
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名古屋大学工学部 教授