学会誌「自然災害科学」

自然災害科学42 Vol.16,No.2, 1997, p99f

【巻頭言】[Preface]

災害時のボランティア活動について

国土庁防災局長
山本 正尭

平成7年1月17日早朝,阪神・淡路地域を襲ったマグニチュード7.2の地震は6,300人を超える犠牲者と未曾有の被害をもたらしたが,この災害の直後から復旧・復興に至る各局面で,柔軟できめ細かいボランティアの活動は極めて大きな役割を果たした。

災害時におけるボランティア活動としては,これまでも雲仙岳噴火災害や北海道南西沖地震の際のもの等が知られていたが,阪神・淡路大震災においては,災害発生直後から,大勢のボランティアが各地から駆けつけ,物資の搬送,避難所での作業補助等被災地の様々なニーズに対応した活動を行った。発災後13か月間に活躍したボランティアの数は,のべ約140万人に及んだとされている(兵庫県調べ)。被災した地方公共団体や日赤,社協のほか各種ボランティア団体においては,ボランティアの受入れ窓口を設置し,登録・あっせんや,被災地の情報提供などを行うことにより,活動を側面的に支援した。

本年1月に発生したナホトカ号流出油災害においては,重油漂着直後より,関係機関,地元住民の他,各地から駆けつけたボランティアが,厳しい気象条件の中,手作業を中心とする油回収作業を行った。同災害においては,関係地方公共団体,社協,ボランティア団体等によりボランティアの受入れ対応がなされたが,そのノウハウが不十分な市町村においても,阪神・淡路大震災で活躍したボランティア団体等の協力を得ながら対応を行った例も見られ,このような点で先の震災の経験と教訓が活かされたといえよう。

災害発生後においては,国や地方公共団体が応急・復旧等の対策に万全を期することとなっているが,被災者一人ひとりにきめ細かい支援を行うボランティアの活躍も期待される。特に,災害時のボランティア活動は,炊き出し,救援物資の搬送といった誰もが参加できるものから,応急危険度判定や法律相談など専門的知識や技能を活かせるものまでその形態は多岐にわたることから,活動主体及びその対応も様々である。このため,これを推進するためには,平常時から関係する機関・団体の連携を醸成していくことが重要であり,受人れ・コーディネートといった大きな課題については,これらの機関・団体が連携して対処していくことが必要である。

こうしたボランティア活動の高まりの要因としては,一つには,近年のNPOやNGOなど非営利的な市民活動の活発化が挙げられる。さらには,自由時間の増大,地球環境問題の深刻化などの社会的変化が価値観の多様化をもたらし,ボランティア活動に関する考え方も,これまでの無償の奉仕活動から自己実現のための市民活動へと変わってきていることも大きな要因であろう。

このような活動を法律・制度の面から支援していくため,現在,国会においては,民間非営利団体に対して法人格を付与するNPO法案が審議されており,また,関係省庁においてボランティア活動を支援するための各種施策が実施されているところである。災害時のボランティア活動については,平成7年の災害対策基本法の改正及び防災基本計画の改訂時に「ボランティアによる防災活動の環境の整備」に関する事項等が盛り込まれ,また,普及・啓発を図るため,1月17日を「防災とボランティアの日」,1月15日から1月21日までを「防災とボランティア週間」として創設することが閣議了解された。これを踏まえ,国土庁においては,関係する機関・団体との連携の推進やシンポジウム開催等を実施しているところである。

災害は忘れたころにやってくるもの。阪神・淡路大震災,ナホトカ号流出油災害等で根付いた災害時のボランティア活動の火を消さず,さらに盛り上げていく原動力は,何よりも我々国民一人ひとりの防災意識である。災害時におけるボランティア活動の果たす役割が今後ますます大きくなっていくことを考えると,こうした国民の防災意識が一層高まっていくことが望まれるところである。